MERZBOW「VENEREOLOGY」

Venereology

Venereology

最近久しぶりにこの辺りの音を聴いているので、折角なんでレビュー。とは言っても、10年位前にリリースされたアルバムなんで、今更感はぬぐえないけど、まぁそこは目を瞑って。
MERZBOW(以下メルツバウ)は秋田昌美氏によるノイズユニット。おれは秋田氏の著した『ノイズウォー』という本によってノイズミュージックに目覚めたので、氏はおれにとっては神みたいなものなんですよ。で、その神が作り出す音はどんなものかというと、そりゃもうまごう事なきノイズなわけです。およそ楽器とは言えないであろうオブジェクトを用いて音を発し、それをマイクでピックアップした後ディストーションユニットに通してさらにアンプリファイする。そりゃもう気持ちいいくらいのノイズ。騒音。そうさな、文字で表現すると「ガガー」「ザザー」とかそんな感じですよ。そんな音が約50分強続くわけです。人によってはただの拷問、しかし人によってはこの上ないカタルシスを感じることができるかもしれないほどの音塊。
音楽の三要素とは「リズム」「メロディー」「ハーモニー」と言われます。その論から導けば、明らかにこのノイズ群は音楽ではないわけです。ただ、ノイズの中に生まれ出ずる様々な周波数が織り成す聴取し難いリズムや、そこに含まれる倍音成分が作り出す認識できないメロディー、そしてハーモニーが感じられるようになれば、それはもう音楽なのです。
「これは音楽ではない」という意見は至極当然のものです。明らかにただのノイズですから。しかし、そのノイズを能動的に聴取しようとする行為によって、すなわちその作品を鑑賞しようとする行為によって、巷に流れる他の全ての音はこの作品にとっての「ノイズ(騒音)」となるのです。メインとサブの逆転現象。これほど興味深いことはありません。
換言すれば、空間に溢れ漂う騒音もまた、音楽(三要素による音楽とはかけ離れますが)として成立しうるということです。実際ジョンケージの有名な作品『4分33秒』などは、その時間提供される沈黙の中に聞こえうる物音や話し声などを作品として位置づけています。つまりノイズミュージックは現代音楽の領域に入ってくるわけです。
メルツバウのこの作品は、その側面をエクストリームに表出させることによって、強烈な印象を与えることに成功しているといえるのではないでしょうか。
書きながら訳分からなくなってきてます。当然万人にお薦めできる作品ではありません。ただ、世の中にはこんなものもあるんだよ、ってことで紹介させていただきました。