となり町戦争:作者: 三崎亜記

となり町戦争

となり町戦争

先日友人から借りたままで、今まで読んでいなかったのをやっと読み終えました。
行政施策に隣接市街との戦争行為が組み込まれ、それが実施されている世界でのお話。主人公は普通の会社員。ある日、町内の広報によって知らされた、となり町との開戦。そして戦争の実感も無いまま偵察員としての業務従事を命じられる主人公…。
我々の世代は、日本が当事国となった戦争を体験していない。ただ、当事国に与して参加した戦争と言うものはあるけどね。その辺の話題を掘り下げるのは面倒なのでここではさておく。
例えば、いつもと同じ日常を送っているある日に、「明日からA国と戦争状態に入ります。終戦まで頑張りましょう」みたいなことを言われても、さっぱり実感は無いと思う。「明日からの通勤(通学)はどうすればいいのか?」とか「A国から輸入されているブランド品が買えなくなるの?」とか、卑近な問題に意識を奪われて、戦争によってもたらされる両国の人々の死であるとか、そういったことを想像するのは容易い事ではないかもしれない。
この作品でも、「となり町との戦争」はリアルさを伴わないまま進行してゆき、時折広報で知らされる戦死者数によっても、リアルさはもたらされない。
ただ、主人公自らが敵の勢力地(となり町ですね)から逃げ出すときに感じた痛み、暗闇などが確かに「戦争」を感じさせた。よくテレビのワイドショーで「バーチャルな戦争」とかなんとか知ったようなことを言ってるけれども、それは実際に自国が当事国となっている戦争ではないからだろう。結局は対岸の火事、他国同士で行われている戦争にはさしたる興味も無いのだ。それが例えば原油の価格に影響し、ガソリン代が高くなった時に、「あぁ、戦争してるからね」などとは考えても、レギュラーを満タンにしているその間に戦争で死んでいく人たちのことにまでは思いを馳せはしないだろう。
結局この戦争はどちらの勝利、などという明確な結果も無いまま、単純に「戦争業務の遂行」が完了したいう事実において終戦を告げることになる。主人公は、あくまで個人的な日常の出来事に「戦争」を感じる。
我々が生きているこの日常も、ある意味リアルな「戦争」なのかもしれないね。